あるがどんなに面白い言葉を話そうとも、
絶対に笑ってはいけない時間がありました。
それは、夜の寝かしつけの時間です。
眠る前になると、あるがひとりでお話しをするようになったのは、
いつの頃からだっただろう。
お布団に入り、寝かしつけを始めると、
やがてあるは、ボーッと一点を見つめながら、言葉を話します。
初めは自分の知っている言葉を。
そして、知っている言葉を出し尽くすと、
初めて聞く言葉を話し始めるのです。
絶対に笑っちゃ駄目!
自分にこう言い聞かせるほどに、
笑いが込み上げてしまうのは何故なのでしょうか。
口を押さえて、必死に笑いを堪えた時間もありました。
堪え切れずに笑ってしまえば、待っているのは、あるの覚醒です。
眠りに就きそうだったあるが、
パチッと目を開き、満面の笑みでこちらを見つめるのです。
時々には、堪え切れずに笑ってしまって、
寝かしつけのやり直しなんてこともありましたが、
今、思えば、あの頃の時間もまた、
とても楽しくて、少しだけ苦労したほんのひと時の時間でした。