風邪気味だったあるを病院へ連れて行った日のことでした。
待合室で、診察の順番を待っていると、見知らぬ男性から声を掛けられました。
ぼくはいくつなの?
今日は、お風邪かな?
人見知りをしないあるは、直ぐにこの男性と仲良しに。
やがて、
あぁ、そうだ。
ちょっと待っててね。
こんな言葉と共に、一旦外へと出て行った男性は、
恐らく、車の中から持ってきてくれたのであろう竹とんぼを、
あるにプレゼントしてくださいました。
自分で作ったのだと言うそれは、繊細で、とても美しく、
本当にいただいても良いのだろうかと考えてしまうような素晴らしいものでした。
本当に美しいものというのは、
小さな子にも、何か伝わるものがあるのかも知れません。
この日からのあるは、竹とんぼを放さずに、いつも手にしていました。
眠るまで、あるがおもちゃを離さなかったのは、この竹とんぼだけ。
※眠った後は、危険のないように他の場所へ移しました。
あの時の男性と、また何処かでお会い出来たのなら、
あの後のあるが、どんなにあの竹とんぼを気に入って大切にしていたのかを、
お伝えしたいと思っていましたが、
その機会は訪れることなく、あの頃、まだ小さかったあるは、成人を迎えました。
あの時の男性へ直接、お伝え出来なかった代わりに、
ここに、あの時の感謝の気持ちを残しておきたいと思います。