幼稚園からのお便りをクルクルと丸めたものを手に持って、
嬉しそうに幼稚園バスから降りてきたある。
ママ!見て!
これはね、幼稚園からのお便りだけれど、
忍者の巻物にもなるんだよ。
大きくなったら忍者になりたいと夢見たあるが、
手裏剣の次に手に入れたアイテムは、忍者の巻物でした。
これがあれば、壁抜けの術が出来るんだよ。
バス停からの帰り道は、新アイテムのことで頭がいっぱい。
そうして、
帰宅早々に、壁抜けの術を試してみたいと言い出したのでした。
忍者になることを夢見たあるに、
壁抜けの術は使えないんだよとは、私には言えませんでした。
それでも止めた方が良いのか、見守るべきなのか、
迷う私を他所に、襖へ思いっきり突進して行ったある。
当然の如く、襖にぶつかり尻もちをついたあるは、
痛そうな顔をしながらも、
何故、壁抜けの術が使えなかったのかの方が、重要だったのだと思います。
泣くこともせずに、
不思議そうに巻物と襖を交互に見つめたあの時のあるに、
私はどんな言葉を掛けるのが正解だったのでしょうか。